日本科学未来館の特別展「大南極展」で、私が特に印象に残った展示のひとつが「ブリザード体験」です。
映像を使って、南極の激しい吹雪の中にいるような感覚を体験できる展示でした。
「南極のブリザードって、どれくらいすごいんだろう?」
そんな軽い気持ちで展示トンネルへ入りました。
ところが、入ってすぐに、
「あれ? 気持ち悪い……」
身体はまったく動いていないのに、映像を見ているだけで歩きにくくなるほどの違和感を覚えたのです。
その体験をきっかけに、
「なぜ映像だけで身体が反応するのだろう?」
という疑問が生まれました。
さらに、本物の南極のブリザードについて調べているうちに、十数年前、北海道で車を運転中にホワイトアウトを経験したことまで思い出しました。
今回は、大南極展でのブリザード体験をきっかけに、映像酔いが起こる理由、本物のブリザードの危険性、そして北海道で体験したホワイトアウトについて調べてみます。
大南極展でブリザード体験をしてみた
日本科学未来館の大南極展には、南極の自然や観測について学べる展示だけでなく、実際に体験しながら理解を深められるコーナーもありました。
そのひとつが、ブリザード体験です。

展示スペースは広くありません。トンネルのような部屋の両サイドにスクリーンがあるだけ。

大して長くもありません。10メートルないくらい。この中を歩くだけ。
私はそれまで、「ブリザード」と聞くと、
「ものすごく激しい吹雪」
という漠然としたイメージしか持っていませんでした。
雪が横から吹きつけ、とにかく寒くて前へ進めない。
そんな程度の認識です。
この展示では、実際に風や雪を浴びるのではなく、映像によってブリザードの中にいるような感覚を疑似体験します。
しかしブリザードの映像は白でなく青?紫?色。ちょっと怖い感じがします。
外から展示トンネルを見ているときは、
「面白そうだな」
くらいにしか思っていませんでした。
ところが、一歩中へ入ると景色が一変します。
視界いっぱいに渦が巻くように流れていきます。
動いているというより、景色そのものが回転しているようにも感じました。
もちろん、
「これは映像だ」
ということは分かっています。
しかし、視界の大部分を動く映像が占めるため、身体までその世界へ引き込まれていくような感覚がありました。
そして、展示トンネルへ一歩足を踏み入れただけで、
気持ち悪くなってしまいました。
ブリザード体験をしたら気持ち悪くなった
外から映像を見ているときは、まったく何ともありませんでした。

ところが、展示トンネルへ入った途端、
「気持ち悪い……」
という感覚が一気に押し寄せてきました。
乗り物に乗っているわけではありません。
自分自身が激しく動いているわけでもありません。
ただ立って映像を見ているだけです。
それなのに身体は違和感を覚え、少しまっすぐ歩きにくくなりました。
そこで私は、ブリザードそのものとは別の疑問を持ちました。
「どうして映像を見ているだけなのに、身体まで反応するんだろう?」
気になって調べてみると、どうやら「映像酔い」と呼ばれる現象が関係しているようです。
なぜ映像を見ているだけで気持ち悪くなった?
私たちは、自分の身体が動いているかどうかを、目だけで判断しているわけではありません。
目から入ってくる視覚情報だけでなく、内耳の前庭器官などから得られる身体の動きや傾きに関する情報も合わせて利用しています。
ところが、大きな画面などで視界全体が激しく動く映像を見ると、
目からは「自分が動いている」という情報が入ってくるのに、身体は実際には動いていない
という状態になることがあります。
簡単に整理すると、
目から入る情報
「自分が動いているように見える」
↓
身体から入る情報
「実際には動いていない」
↓
二つの情報にズレが生じる
↓
気分が悪くなることがある
という仕組みです。
この視覚と身体感覚のズレが、映像酔いの原因のひとつと考えられています。
大南極展のブリザード体験でも、目の前いっぱいに吹雪の映像が広がり、景色が激しく動き続けます。
私が気持ち悪くなったのも、こうした視覚から入る情報と身体感覚とのズレが影響していたのかもしれません。
もちろん、同じ映像を見ても何ともない人もいるでしょう。
それでも私にとっては、
「映像だけで、こんなにも身体が反応するんだ」
ということを実感した、とても印象的な体験でした。
そもそも南極のブリザードとは?
ブリザード体験をしたことで、今度は本物の南極のブリザードについて気になりました。
「そもそも、ブリザードって普通の吹雪と何が違うんだろう?」
私はそれまで、ブリザードという言葉を「ものすごく激しい吹雪」くらいの意味で考えていました。
しかし調べてみると、ブリザードの怖さは雪の量だけではありません。
南極では非常に強い風が吹き、地面に積もった雪まで巻き上げられます。
つまり、空から大量の雪が降っていなくても、強風によって周囲が真っ白になり、視界がほとんど失われることがあるのです。
そのためブリザードとは、
強い風が吹く
↓
積もった雪が巻き上がる
↓
視界が極端に悪くなる
という現象でもあります。
大南極展のブリザード体験をきっかけに調べてみて、私が一番印象に残ったのは、この「見えなくなる怖さ」でした。
南極のブリザードで怖いのは「寒さ」だけではなかった
南極と聞けば、多くの人がまず思い浮かべるのは厳しい寒さでしょう。
私もブリザード体験をする前は、
「寒くて風が強い世界なんだろうな」
というイメージしかありませんでした。
しかし調べてみると、本当に怖いのは寒さだけではありませんでした。
雪で視界が悪くなる
まず大きな危険は、雪によって視界が著しく悪くなることです。
強風によって細かな雪が舞い上がると、遠くの景色だけでなく、近くにあるものまで見えなくなることがあります。
空と雪原の境界も分かりにくくなり、自分がどちらへ向かっているのか判断できなくなることもあります。
大南極展では映像による疑似体験でしたが、それでも景色が見えなくなることへの不安を少し感じました。
本物の南極では、それが命に関わる危険につながることもあります。
方向や距離が分からなくなる
視界が悪くなると、自分の位置や進む方向も分かりにくくなります。
普段の生活では、道路や建物、標識、木々などを見ながら、自分がどこにいるのかを無意識に判断しています。
しかし、周囲が真っ白になれば、そうした目印はほとんど役に立ちません。
「近くだから大丈夫」
とは限らないのです。
目印を失えば、ほんの数十メートルでも方向を見失う危険があります。
私は北海道でホワイトアウトを経験したとき、この「景色がなくなる怖さ」を少しだけ体験しました。
だからこそ、大南極展でブリザードについて調べるうちに、この部分が特に印象に残りました。
強風と低温も命に関わる
もちろん、南極では強風と低温そのものも大きな危険です。
強い風が吹けば歩くことさえ難しくなります。
さらに低温の環境では、長時間屋外にいるだけでも体温が奪われてしまいます。
しかも風が吹けば、体感温度は実際の気温よりさらに低く感じられます。
つまり南極のブリザードでは、
視界が悪くなる
+
強風で移動しにくい
+
極寒の環境
という三つの危険が同時に襲ってくるのです。
ちなみに、昭和基地では瞬間最大風速65.3メートルを観測した記録もあります。
私は台風の暴風でも十分怖いと思いますが、その何倍もの厳しい環境を想像すると、本物のブリザードの凄まじさは私には想像もつきません。
昭和基地ではブリザードのときどうする?
では、実際に昭和基地ではブリザードになったとき、観測隊はどのように行動するのでしょうか。
南極では、気象状況を確認しながら活動し、危険な状況では無理に屋外へ出ないことが基本になります。
ブリザードで視界が悪くなれば、基地のすぐ近くでも安全とは言えません。
目印が見えなくなり、強風と低温の中で方向を失えば、大きな事故につながる可能性があります。
北海道でホワイトアウトを経験した私には、
「近くだから大丈夫とは限らない」
ということが少しだけ実感できます。
南極で生活するためには、防寒着や頑丈な建物だけではありません。
危険なときには行動しない。
その判断そのものが、安全に暮らすためには欠かせないのだと思いました。
大南極展では、昭和基地で食事を楽しんだり、野菜を育てたり、お花見や流しそうめんをしたりする様子も紹介されていました。
そんな「普通の暮らし」がある一方で、そのすぐ外には、人間の力ではどうにもならない自然が広がっています。
ブリザードについて調べたことで、昭和基地で暮らす人たちの日常が、以前よりずっと重みのあるものに感じられました。
そういえば北海道でホワイトアウトを経験したことがあった
ここまでブリザードについて調べていて、ふと思い出したことがあります。
十数年前、北海道で車を運転していたときのことです。
激しい吹雪に遭い、周囲が真っ白になるホワイトアウトを経験しました。
そのときのことで、今でも忘れられない感覚があります。
車は道路を前へ進んでいるはずなのに、
なぜか空を飛んでいるような、上へ登っているような感覚になったのです。
もちろん実際には道路を走っています。
それでも、自分が本当に前へ進んでいるのか分からなくなるような、不思議な感覚でした。
周囲は真っ白で、道路も景色もほとんど見えません。
普段なら当たり前に見えている景色が消えてしまうだけで、人の感覚はここまで変わるのかと驚いたことを覚えています。
当時は、
「これがホワイトアウトか……。」
と思っただけでした。
しかし十数年後、大南極展でブリザードを疑似体験したことで、そのときの記憶が鮮明によみがえりました。
ホワイトアウトすると自分の動きまで分からなくなる?
北海道で私が感じた「空を飛んでいるような感覚」が、なぜ起きたのかは正確には分かりません。
ただ、人は普段、道路や建物、木々、地平線など、さまざまな視覚情報を頼りに自分の位置や動きを把握しています。
ホワイトアウトになると、それらの目印がほとんど消えてしまいます。
すると、
「自分がどちらへ進んでいるのか」
という感覚まで曖昧になってしまうことがあります。
北海道で経験したときも、車は確かに前へ進んでいました。
しかし、景色が見えないことで「前へ進んでいる」という感覚そのものが頼りなくなっていたのかもしれません。
ここで、大南極展での体験と比べると面白いことに気づきました。
大南極展では、
身体は動いていないのに、景色だけが激しく動いていました。
一方、北海道では、
身体は実際に動いているのに、景色から自分の動きを確認できませんでした。
状況は正反対です。
それでも、どちらも普段とは違う身体感覚を経験しました。
私は今回の記事を書きながら、
「人は思っている以上に、見えている景色を頼りに自分の動きを感じているんだ。」
ということを改めて実感しました。
吹雪の怖さは「見えなくなること」にもある
大南極展へ行く前から、私は「ブリザード」も「ホワイトアウト」も言葉として知っていました。
しかも、北海道では実際にホワイトアウトまで経験しています。
それでも今回調べるまで、吹雪の怖さについて深く考えたことはありませんでした。
私の中では、
「吹雪=寒い・風が強い・雪がたくさん降る」
というイメージが強かったからです。
しかし、大南極展でブリザードを体験し、自分自身のホワイトアウトの記憶も振り返ってみると、本当に怖いのはそれだけではありませんでした。
吹雪の怖さは、「見えなくなること」にもあります。
景色が消える。
目印がなくなる。
自分がどちらへ進んでいるのか分からなくなる。
私自身、北海道では前へ進んでいるはずなのに、空を飛んでいるような感覚まで経験しました。
景色がなくなるだけで、人の感覚はここまで影響を受けるのだと、身をもって知りました。
そのうえ南極では、昭和基地で瞬間最大風速65.3メートルを記録したこともあります。
そんな暴風の中で視界まで失われたら、私には想像もできません。
今回、大南極展でブリザードを体験したことで、十数年前の北海道で感じた不思議な感覚の意味を、少しだけ理解できたような気がしました。
大南極展にはブリザード以外にも面白い展示があった
今回、ブリザードについて深く調べるきっかけになったのは、日本科学未来館の「大南極展」でした。
しかし、この展示会の魅力はブリザード体験だけではありません。
南極で数多く発見される隕石。
本物の南極の氷から聞こえる、何万年も前の空気が弾ける音。
そして昭和基地での暮らしや、隊員たちの日常。
「南極って、こんな場所だったんだ。」
展示を見終えたあとには、それまで持っていた南極のイメージが大きく変わっていました。
大南極展全体の見どころや体験内容については、親記事で詳しく紹介しています。
関連記事:日本科学未来館「大南極展」に行ってきた|隕石・南極の氷・ブリザード体験と昭和基地の暮らし
まとめ|大南極展のブリザード体験から、北海道のホワイトアウトを思い出した
今回、大南極展でブリザードを疑似体験したことで、思いがけず十数年前の北海道でのホワイトアウト体験まで思い出しました。
映像を見ているだけなのに気持ち悪くなったことから、
「なぜ身体まで反応するのだろう?」
という疑問が生まれ、映像酔いについて調べました。
さらに、本物の南極のブリザードについて調べると、
寒さや風の強さだけではなく、「視界を失うこと」そのものが大きな危険
だということも分かりました。
そして、その話は私自身が北海道で経験したホワイトアウトへとつながります。
ブリザードを疑似体験する
↓
映像だけで気持ち悪くなる
↓
映像酔いについて調べる
↓
本物のブリザードの危険性を知る
↓
北海道で経験したホワイトアウトを思い出す
今回の記事を書きながら改めて感じたのは、
人は「見えている景色」に支えられて、自分の位置や動きを認識している
ということです。
景色が消えるだけで、前へ進んでいる感覚さえ曖昧になることがあります。
大南極展のブリザード体験は、単なる体験型展示ではありませんでした。
南極という極限環境の厳しさを知ると同時に、自分自身が過去に経験したホワイトアウトの意味を改めて考える、そんなきっかけにもなりました。


コメント